暗くて重い一品だが演出の妙味満載 おすすめ度 ★★★★☆
前回吹き替えでTV観賞したのはたぶん15年前ぐらい。
ヒッチコックには珍しい実話(なので、ヒッチ自身もカメオ出演ではなく冒頭のナレーションに登場する)。時系列や登場人物の名前などもほぼ実際の出来事にもとづくらしい。冤罪逮捕をテーマにした重い映画ではあるが、新聞記事と主人公の表情の対比カット割り、留置場の回るカメラの描写、護送車の靴の描写、小窓からのインアウト、弁護士の会話と視線の食い違い、法廷で肩に置かれる手、真犯人とのオーバーラップなどなど演出の見せ場満載でヒッチコッキアンにも満足。ヴェラ・マイルズの狂いっぷりと救いの乏しいエンディングが個人的には好みかな。やっぱ暗い話とか救われない話が真底好きらしい。なんだそれ。
同じ年に公開された「12人の怒れる男」に逆の立場で主演しているヘンリー・フォンダ。自分と誕生日が同じせいもあってか妙に親近感のわく演技派だが、この時期の主演作品は本当に脂が乗っててよいですな。
概要
ヒッチコック監督お得意の“巻き込まれ型”サスペンスなのだが、今回はいつもとちょっと違う。実話をべースに、強盗の容疑をかけられたベースの奏者が、無実の罪を着せられてしまう。ついに彼の妻は精神を錯乱させてしまい、貧しくとも平和だった一家は崩壊してしまう。 ヒッチコックのサスペンス映画にしては珍しく、主役となるのは庶民であり、それも借金に苦しむ家庭の主である。そこには国家レベルの陰謀も、秘密兵器の設計図をめぐるアクションもない。ひとりの男が、ある日突然嫌疑をかけられたことで、すべてを失い社会から抹殺されそうになる、その危機感。犯罪がいかに人の一生を狂わせるか、そのプロセスを描いた異色のサスペンス映画。そのため真犯人は最後のぎりぎりまで姿を現さず、カメラはヘンリー・フォンダ扮する一市民と彼の妻(ヴェラ・マイルズ)の狼狽ぶりを淡々と追いかけていく。最終的に主人公の疑惑は晴れるが、妻は精神を病んだままというラストが苦い。(斉藤守彦)
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